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海運物語

波濤を越えて ー 海運物語

波濤を超えて ー 海運物語
 
 
 
太平洋から吹き抜ける風が心地よい。
サンペドロの小高い丘の上から眼下を見下ろす。
 
そこには全米最大のコンテナ取扱を誇るロサンゼルス港が拡がる。
その向こうにはロングビーチのコンテナターミナルが霞んで見える。
 
海運業界に就職して20年。ようやく希望が叶っての米国駐在。夢にまで見たロサンゼルスの地。
 
「ようやく、ここに来た」
 
行き交う船を見ながら、彼は感慨にふけり、彼のこれまでの来し方を思った。
 
 
彼、 大船海渡が海運業に興味を持ったのは、彼がまだ、大学の3年の時。友人である永田健二が運転する中古の車で東京湾の埠頭に遊びにいったときだ。近くに船の科学館が見える。
 
「船の科学館」は海と船の文化をテーマにした海洋博物館である。
 
昭和38年(1963年)9月、財団法人日本船舶振興会がモーターボート競争の収益を世のため人のために生かす事業として、海事科学の普及を目的として博物館建設の基本方針を決定。
 
昭和39年(1964年)10月、海外海事博物館の調査を開始。
 
翌年の昭和40年(1965年)に運輸大臣の許可を取得した。急ピッチで
審議が進められ、 昭和42年(1967年)財団法人海時科学振興財団が設立された。
 
昭和43年(1968年)博物館の名称が「船の科学館」として決定された。
 
それから6年の歳月を費やし昭和49年(1974年)3月、東京都江東区有明に
「船の科学館」本館がその容姿を現した。
 
同年夏にはプール、冬にはアイススケート場を開設。都民の憩いの場として徐々に知られるようになっていった。
 
特に「船の科学館」を語る上で忘れてはならないのが、その発起人ともいえる財団法人日本船舶振興会の会長、笹川良一氏であり、また軽快な音頭をとるテレビのコマーシャルだ。
 
「戸締まり用心、火の用心」で始まるこのコマーシュル。
「船の科学館」にも触れ、日本における海事、船舶事情の重要性をアピールしている。
 
財団法人日本船舶振興会は笹川初代会長が亡くなったあと、名称を公益財団法人日本財団として広く海事普及の活動を行っている。
 
 
 
大船達が「船の科学館」を近くで見ていたその少し前の昭和54年(1979年)、館内では、日本初の南極観測船「宗谷」の一般公開が行われている。
 
彼らは館内を入ることもなく、というよりも入るお金がないという理由もあり、眼前に拡がる東京湾の青い海と白い波を飽きることなく見続けていた。
 
ふいに健二が海渡に聞いた。「大学卒業したら、どうする」。
 
思ってもいない質問に、足元の小石をひょいと拾い上げ、小学生の時によく見た
マンガ「巨人の星」の星飛雄馬よろしく、片足を大きく上げて、大リーグボール一号をなげるような仕草で小石を海に投げ入れた。
 
「全く考えていないよ」正直な気持ちだ。
大学の成績が決して良いわけではない。優良企業にいけるとも思っていない。
 
ただ、漠然と世界を駆け巡るような仕事ができたらな。 そんな思いはあった。
しかし、まだ、具体的なイメージはない。
 
「お前は?」と聞き返した。 健二も足元の小石を海に向かって蹴り入れると
「俺も考えていない」と答えた。
 
ただ、不思議なものだ。この海を見てたら海に関わる仕事もいいかな。
 
 
「さあ、帰ろうか。寒くなってきたし」車に向かう健二。
「アパートに戻ったら、一杯飲みに行こう」と海渡。
 
2時間かけて八王子の健二のアパートに戻った二人は車をおいて近くの居酒屋へ行った。
 
ビールで乾杯した海渡の脳裏には今でも東京湾から見た海の光景が残っていた。
「あの波の向こうは海外か。太平洋を渡るとアメリカだな」
海渡はビールを一気に飲み干した。
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